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【NPJ通信・連載記事】ホタルの宿る森からのメッセージ/西原 智昭

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第77回「野生のヨウムは救われるのか(1)」

2017年3月27日

※本稿は、特定非営利活動法人アフリカ日本協議会の会報『アフリカNow』(第107号 pp. 14-17
 2017年3月)に掲載された記事「野生のヨウムは救われるのか」より転載し、執筆者が一部加
 筆・修正したものです。


▼野生のヨウムに何が起こっているのか

 ヨウム(African Grey Parrot; Psittacus erithacus erithacus)はスマホのカバーを噛み続けていた(写真315)。一心不乱であった。騒ぎもせず、頭とくちばしを器用に動かし、カバーの端から端へと。30分の間に、ついに、カバーは使い物にならなくなるくらいになった。小さなケージに入っていた他のヨウムもそれを見て興味津々。狭い空間に押しとどめられた彼らには、ストレス発散の対象がない。ある日本の「鳥カフェ」でのひとときである。
写真1      写真315:鳥カフェでスマホのカバーをかじるヨウム©西原智昭

 コンゴ共和国。夜明けの時間帯、熱帯林の頭上、空高く、グループで移動するヨウム。その声は高らかに、まさに「よーし、きょうも一日が始まった。みんなで出かけよう」と声を出し合い、集団から若干遅れた数羽のヨウムは、「待ってくれ〜」とばかりに声を張り上げて前方のヨウムを追っていく。夕暮れ時になれば、樹冠のはるか上を飛ぶヨウムの、同じような光景を見ることができる。

 「鳥カフェ」にはきっと鳥マニアが集まるのだろう。3m四方の空間にいる数十羽のインコやオウム、そしてヨウムに囲まれて、どのお客さんも満足そうな顔をしている。主翼を除去されたそれらの鳥は、自由に飛ぶことはできず、人の肩や頭の上に乗って遊ぶ。カフェの店員も「ヨウムは人気があり、1羽25万円で売れていきます。ヨウムはフィリピンなどのブリーダーから入荷されてきます」と誇らしげに説明する。
 世界自然保護連合(IUCN; International Union for Conservation of Nature)のレッドリストに登録されているほど、生存の危機に瀕しているにもかかわらず、2011年からコンゴ共和国北部では1,500羽以上のヨウムの違法捕獲が検挙されてきた。密猟者の格好の対象となり続けているのは、国境を接するコンゴ民主共和国とカメルーンがワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)下で附属書IIに属し、一定数の捕獲輸出を許可(それぞれ年間5,000羽、3,000羽)されていたためである。その結果、ヨウムが比較的多いとされるコンゴ共和国に密猟者が違法で入り込み、捕獲を継続していたという経緯があった。当のコンゴ民主共和国とカメルーンでは、ヨウムの数は多くないからだ(図1)。
写真3図1:WCS研究者により調査されたヨウムの観察頻度に関する3ヶ国比較(Congo:コンゴ共和国、
  Cameroon:カメルーン、DRC:コンゴ民主共和国) ©WCS 2016

 ヨウムは、世界各地でペットとして高い人気がある。かわいらしい風貌の上に、人間の言葉を真似るのが上手であるなどが理由だ。その知能は人間の4〜5歳の幼児並みであるらしい。しかし獣医の報告によると、ヨウムの人工繁殖の成功例は多くないという。このことはペットとして飼われているヨウムはほとんどが野生種であることを示唆している。この点、通常ペットとして売買が可能になっている他のオウムやインコとは大いに異なる。
 ぼくが活動しているWCS(Wildlife Conservation Society)のコンゴ共和国のある基地では、唸り声のような音が聞こえてくる。パトロール隊の尽力で密猟者から押収されたヨウムの声である。1m立方もないような狭い檻に閉じ込められた数百羽が、まさに「ウー、もうイヤだー」と声を発しているような感じである。先日まで空高く舞い上がって飛行していた陽気なヨウムたちの声とは雲泥の差だ。
 ワシントン条約の資料によると、年間400〜500羽超の生きたヨウムが日本に輸入されている。ヨウムは、ペットとして買うことを「お迎えする」と表現するくらい、マニアに重宝されている。ペットショップでヨウムは「フィリピン産」と表示されているように、ほとんどの客はヨウムがアフリカの熱帯林に生息している野生種由来であることを知らない。さらにいえば、通常ヨウムは集団で生活し、一羽にされてペットとして飼われるのは尋常な状態でなく、ヨウムに高いストレスを与える要因になっているとは露も知らない。こうした点で、日本人も野生ヨウムの絶滅に拍車をかけている可能性があり、その責任は重い。
 コンゴ共和国北部の事例では、密猟者から確保されたヨウムは、主翼を切断され寸分もの移動を許されない空間に押し込められていたため、その致死率は高く、60%以上は数日内で死んでしまう。極度のストレスと寄生虫などによる感染症のためである。獣医がその後に医療チェックや抗生物質の投与、主翼復活のための手立てを施しても、生き残った半分はやがて死亡する。主翼の戻る6ヶ月後になんとか野生復帰できるのはごくわずかでしかない。仮に合法的にヨウムがそのまま海外に輸出されたにしても、長時間の輸送中にほとんど死に絶えることを想像するのは難くない(写真318)。なんとか目的地にたどり着いた数少ないヨウムの背景には、幾羽にものぼる野生ヨウムの死があるのだ。
写真5       写真318:密猟者から押収後すぐに死亡したヨウム©西原智昭

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