【NPJ通信・連載記事】高田健の憲法問題国会ウォッチング/高田 健
戦争する国づくりにつきすすむ安倍改憲を阻止しよう!
【戦争する国づくりと安倍首相らの明文改憲の企て】
3月18日、南スーダン国連平和維持活動(PKO)派遣の陸上自衛隊部隊の隊員5名が、物資調達業務中に南スーダン政府軍に拘束され、約1時間後に解放されるという事件が起きた。
この事件は、3月10日、安倍首相が「5月末を目途に活動を終了させる」と表明して1週間も立たないうちの事件であり、2012年1月、自衛隊が南スーダンに派遣されてから初めての重大事件だった。
この自衛隊たちは2011年に分離独立した南スーダンの「国連南スーダン派遣団(UNMISS)」の一部で活動する現在の日本での唯一のPKO部隊で、2015年の戦争法に基づき、2016年12月から同法の新任務を付与されて派遣されていた。戦争法を発動するために、世論の反対を押し切って強行された派兵だった。
その後、南スーダンでの内戦が激化し、PKO5原則にすら反することが指摘され、現地自衛隊の「日報」開示請求に対する「日報隠し」事件など、防衛省と稲田防衛相の責任が追及され、持ちこたえられなくなった安倍政権の「撤退表明」だった。
私たちは撤退は当然だが、即時撤退させないと、戦場で自衛隊が巻き込まれる危険があることを指摘して行動してきた。その矢先の事件だ。
幸い、今回は自衛隊と南スーダン政府軍との戦闘にならなかったが、そのような事態が引き起こされれば、安倍首相の責任は重大である。一刻も早く南スーダンPKOからの自衛隊撤退を実現させるべきだ。
もともとこうした事態が生じる根源には、安倍政権が憲法解釈を変えて、集団的自衛権の行使を限定容認した閣議決定と、それによる憲法違反の戦争法がある。
2014年7月1日、安倍政権の下で、集団的自衛権行使が閣議決定で合憲解釈され、9月には戦争法が成立した。
にもかかわらず安倍首相はひきつづき改憲に意欲を燃やしている。
昨年夏の参院選の後、安倍首相は「我が党が独自に衆参で3分の2を持っているわけではない。我が党の案がそのまま通るとは考えておりません。その中において、我が党の案をベースにしながら3分の2を構築していくか、これが政治の技術と言ってもいいだろう」と豪語し、自民党憲法改正草案実現の立場を強調していた。
そして、今年、3月5日の自民党大会で安倍首相は「憲法施行70年の節目に当たり、私たちの子や孫、未来を生きる世代のため、次なる70年に向かって、日本をどのような国にしていくのか。その案を国民に提示するため、憲法審査会で具体的な議論を深めようではありませんか。未来を拓く。これは、国民の負託を受け、この議場にいる、全ての国会議員の責任であります。世界の真ん中で輝く日本を、1億総活躍の日本を、そして子どもたちの誰もが夢に向かって頑張ることができる、そういう日本の未来を、共に、ここから、切り拓いていこうではありませんか」と述べた。
「世界の真ん中」という、「1億総活躍」といい、何のてらいもなく語るのが安倍のウルトラナショナリズムの真骨頂である。
しかし、その後、世論と野党などの厳しい批判のなかでと自民党の憲法改正推進本部はこの改憲草案を「党の公式文書」の1つとしての位置に格下げした。自民党の改憲項目の論点整理では、野党を改憲論議に引き込むために従来の自民党の改憲項目を絞り込み、野党が主張する論点も盛り込んで改憲議論の具体化を進める方向に、戦術を転換させている。
なぜ、安倍首相らは自らが掲げてきた「改憲草案」を事実上棚上げし、自説を曲げてまで野党の一部を改憲に取り込もうとして改憲にこだわるのか。
それは「戦争法」といえども、いまなお日本国憲法の縛りのもとにあるからだ。
戦争法が実現した集団的自衛権の限定行使では、集団的自衛権を自由に行使することができるわけではない。PKO法は改悪され、「駆け付け警護」や「宿営地共同防衛」ができるようになったといっても、国連や米軍の指揮下で自衛隊が自由に戦争ができるようにはなっていない。
安倍首相はなんとしても憲法9条に代表される日本国憲法を変えたい(戦後レジームからの脱却)のである。ともかく、改憲の突破口を開きたい、そこから9条を変えて、「フルスペックの集団的自衛権行使」が可能な国にする、世界的規模で米国と共に「戦争する国」にしたいということだ。
そうした現れが、トランプ大統領の10%もの軍事費増強に呼応する「防衛費のGDP1%枠にこだわらない」という発言であり、敵基地攻撃論として語られる海外への武力攻撃の権利などの危険な議論である。
そして対外的な戦争準備は「共謀罪」の制定の動きに見られるような国内的な治安維持体制の構築だ。
まさにこの両者は一体のものだ。
【飲み込みやすくして緊急事態条項の導入をはかる】
3月16日、衆議院憲法審査会が共産党などの再開反対を押し切って開かれた。
この日の会議は「参政権の保障」という一般的なテーマ設定であったが、自民党側は「大災害など緊急事態時の国会議員の任期延長」を認める改憲に焦点を絞って改憲を訴えた。
この議論は、さまざまな改憲を要求する項目の中で焦点を緊急事態条項の導入に絞ったものだがその中身は、従来、自民党が主張してきた緊急事態条項導入論とは大きく違っているのが特徴だ。
従来、自民党が主張してきた「緊急事態条項」の設置の改憲論は、自民党改憲草案の第98条、99条に見られる。
■自民党改憲案第98条
内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。(以下略)
■自民党改憲案第99条
緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。(以下略)
この「草案」によれば、武力攻撃、内乱、大規模自然災害などにおいて、内閣が緊急事態を宣言すれば、自由に「政令」をつくったり、自由に予算を使ったり、自治体への指示を出すことができるというものだ。これは市民や法曹界、野党などから戒厳令か、「ナチスの授権法(全権委任法)と同じだ」との厳しい批判を浴びていた。
しかし、今回の自民党の委員たちの主張は「衆院解散などで議員が失職中に大規模災害が起きれば、議員不在になる。こうした時期に議員任期を延長できる特例を憲法に書き込むべきだ」などというものだ。これなら「与野党の憲法観を超えて一致できる」(中谷元・自民党幹事)だろうという。
悪名高い緊急事態条項から、ナチスの授権法に連なると言われそうな論点をはぎ取って、憲法が定める衆議院議員の任期に絞ってしまったのである。
実際、この日の憲法審査会では民進党の枝野議員は「検討すべき問題は他に沢山ある」としながらも、「議員任期延長問題は検討に値する」と述べ、同じ民進党の細野議員は自説を示して、「180日を上限とした任期延長」論を語った。
枝野議員は安倍政権の改憲論には乗らないと言明しているが、細野議員の議論を聴いて自民党はほくそ笑んだに違いない。
この自民党の議論は、議員任期を口実に明文改憲をなんとしても実現し、これを突破口に最終的には自民党改憲草案に見られるような憲法の破壊を実現しようとするものであり、まさに議員任期改憲論はいわゆる「お試し改憲」の部類である。
しかし、この議論はペテンである。
ペテンの第1。日本国憲法はこのような緊急時への対応を定めており、改憲は必要がない。
憲法第46条は「参議院議員の任期は、6年とし、3年ごとに議員の半数を改選する」とあり、憲法54条2項は「衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる」とある。国会解散時の災害発生など異例のことであるが、それでもなお改憲論者が語るような国会の空白は生じないのである。
ペテンの第2。議員任期の延長に限って緊急事態条項を導入するとはいえ、一旦、緊急事態条項が組み入れられたなら、それが「解釈」によって議員任期以外の問題に拡張されるおそれがないとはいえないのである。この危険性は、ナチスによるワイマール憲法の破壊の歴史を思い起こすまでもないだろう。
緊急事態における議員任期の延長等と称する「改憲」は絶対に許すことができないものである。
【安倍政権を退陣に追い込み、戦争する国の道を阻止する】
これまで筆者がくり返し指摘してきたように、安倍政権の本質は極右「日本会議内閣」であるというところにある。
日本会議はナショナリズムと親米・従米が結合した特異なスタンスを持った右翼潮流である。
自民党は3月の「平成29年度方針」で臆面もなく「わが党は日本の歴史、伝統、文化を次の世代へと引き継ぎ『日本らしい日本』を守る。今後も靖国神社参拝を受け継ぎ、国の礎となられた御英霊の御魂に心からの感謝と哀悼の誠をささげ、不戦の誓いと恒久平和への決意を新たにしていく」などと述べている。まさに自民党は日本会議に支配されているかの観がある。
この安倍政権における日本会議メンバーの切り札的存在だった稲田朋実防衛相が南スーダン自衛隊問題で、憲法違反の主張や資料隠蔽など、閣僚辞任に値するような失策を続けているだけでなく、いま安倍内閣を揺るがしている森友学園疑惑においても、これとの癒着が暴露されている。
森友学園問題とは、いうまでもなく、日本会議的な右翼イデオロギー集団による異常な教育と、それを礼賛し支援する安倍夫妻をはじめとする自民党の右派集団の存在、および安倍政権とその意志を忖度する官僚との癒着を背景にした国有地払い下げにまつわる疑獄事件である。
さまざまな安倍政権の悪政に反対する課題と合わせて、この森友疑惑の暴露の闘いが進むに連れて、異常な高率を示していた安倍内閣支持率も下降し始めた。危機の中で4月解散説も一部永田町にはあるものの、安倍政権の解散権行使の幅は狭くなってきている。安倍政権は急速に窮地に陥りつつある。
この社会の進路を危機に陥れ、戦争への道につき進む安倍政権を退陣に追い込む可能性は見えてきた。私たちの課題は安倍政権の退陣を実現することで、目前のさまざまな切実な課題の解決をめざすことだ。
そのためのキーワードは「総がかり」と「市民連合」である。幅広く大規模な共同行動を組織する「総がかり行動実行委員会」のような運動の組織化と、それを基盤にした「市民連合」による立憲や党との共闘の組織化、ここにこそ活路はある。
(高田健:「私と憲法」2017年3月25日号所収)
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