【NPJ通信・連載記事】高田健の憲法問題国会ウォッチング/高田 健
朝鮮半島の危機に直面して~対話による解決しかない対米追従のみの安倍外交の無能、無策
【朝鮮半島の危機】
オバマ前大統領との違いを際だたせるかのように、米国のトランプ大統領が中東で、東アジアで極めて危険な軍事冒険主義に走っている。
4月6日、米国はシリアのアサド政権が化学兵器を使用したことに対する「人道的介入」だとして、突然、大量の巡航ミサイルによる空爆をおこなった。
これは国連での議論や決議、アサド政権による化学兵器使用の証明もないままにおこなわれた無謀な空爆だ。このような無謀・無法な軍事攻撃は2003年のジョージ・ブッシュによるイラク攻撃と同じで、このような軍事攻撃が許されていいはずはない。
しかし、イラク戦争における小泉純一郎首相(当時)と同様に、7日、安倍首相は世界に先駆けて「米政府の決意を日本政府は支持する」と表明した。
つづいて4月13日に米国はイスラム国(ISIS)を掃討する作戦の一環として、アフガニスタンに最強の非核爆弾と言われているMOAB(モアブ)を投下した。
これには親米政権のカルザイ大統領ですら、「これはテロとの戦争ではない。新しい危険な兵器の実験の場として、わが国を悪用した非人間的で最も残酷な行為だ」と強く抗議した。
一方、緊迫する朝鮮半島情勢との関連で、6日の日米両首脳電話会談で、安倍首相は「トランプ大統領からは、全ての選択肢がテーブルの上にあるとの力強い発言があった」と述べた。
朝鮮半島における「全ての選択肢」とは米国による核攻撃も含まれる。安倍首相は朝鮮半島情勢においても米国の全ての動きを支持すると表明したのだ。
米軍は、9日、原子力空母カールビンソンを、朝鮮半島側に向かわせると発表した。理由は「北朝鮮は無謀で無責任で、安定を害するミサイル実験と核兵器開発のためにこの地域の最高の脅威」となっており、これに対応することにあるとされた。
防衛省は、この「カールビンソン」と海上自衛隊の艦艇による共同訓練を東シナ海周辺で実施することにした。これは一昨年に強行した戦争法の事実上の発動準備であり、日米が軍事的にも協力して朝鮮情勢に対応することの表明であり、北朝鮮に対する自衛隊の公然たる敵対表明となる。
朝鮮半島情勢の緊張緩和を望むなら、何よりも当事者の米朝を含む関係国の対話が必要であり、武力の行使と、それを助長するような言動は慎まなくてはならない。
【中国が提案する“双中断”“双軌並行”】
韓国のハンギョレ新聞の報道によれば、6カ国協議の議長国である中国の王毅外相は14日、以下のように述べた。
「最近、米韓と北朝鮮が互いを狙って刃物を握り弓を引いて、嵐の前夜の形勢になった」
「中国はいかなる形であれ緊張を高める言動と行動に一貫して反対する」
「武力では問題を解決できず、対話のみが唯一の出口ということを歴史は何度も証明してきた」
「朝鮮半島の問題は、誰の言葉がより凶悪で、誰の拳がより大きいかで(解決)できるものではなく、ひとたび本当に戦争が起きれば、誰も勝者にはなれないだろう」と。
そして「中国は各国に訴える。言動も行動も互いをこれ以上刺激せず、事態を挽回不能、収拾不能の状況まで追い立てるな」
「(朝鮮)半島に戦争と混乱を招こうが迷惑をかけようが、歴史の責任を負わねばならないことであり、当然な代価を支払わなければならないだろう」
王毅外相は中国が主張する「“双中断”(北朝鮮の核・ミサイル試験中断、韓米の大規模軍事訓練中断)と“双軌並行”(非核化・平和体制転換)など対話と交渉を通じた解決策を提案し、「中国はこれを一層細部化し、適切な時期に運営方案を提示するだろう」「同時に中国は開放的態度で各国が努力する建議を受け入れる。対話をするということならば、公式であれ、非公式であれ、2者でも、3者でも、4者でも、中国はすべてに支持を送るだろう」と述べた。
このところの中国の東アジアにおける覇権主義的な、力任せの外交はそのまま容認できないが、朝鮮半島の危機に対する王毅発言は支持できるし、この対話路線の実行だけが現在の危機を平和的に解決できる道だと考えられる。
連日のメディアの報道は忘れているかのように全く触れないが、朝鮮戦争は未だ終わっておらず、停戦協定があるのみなのだ。ここで米韓が大規模軍事演習をくり返したり、北朝鮮がミサイルや核爆弾の実験をくり返すことは、たえず戦争の危機を招かざるをえない危険なチキンレースだ。
王毅のいう“双中断”“双軌並行”は重要な解決の道だ。これによって不安定な停戦協定を平和協定に転嫁する以外に朝鮮情勢の解決はない。
~対米追従のみで、平和実現に無能な安倍政権~
しかし、北東アジアの軍事的緊張の急激な増大の中で、安倍政権には、緊張を緩和し、平和を実現するための努力と能力が全くなく、ただただ「日米同盟ファースト」でトランプ大統領に追従するのみだ。
日米首脳会談で両首脳が「中国に期待する」と言っても、安倍首相がそれを言える立場だろうか。
安倍政権はこの間、「地球儀を俯瞰する外交」「価値観外交」などと称して、事実上、中国を敵視し、包囲するための外交を進めてきた結果、現在、日中関係は戦後最悪の状態にある。日本政府はいま、中国に働きかける能力をまったく持たない。
肝心の韓国との間でも、先の軍隊慰安婦の「少女像」をめぐって駐韓大使を引き上げるという強硬措置をとり、その後、臨時大統領との会談を求めて帰任させたものの、韓国側はいまだに日本大使との会談に応じていないなど、ギクシャクしている。
4月18日に来日したペンス米国副大統領との会談で、安倍首相は「北朝鮮が真剣に対話に応じるよう、圧力をかけていくことも必要だ。トランプ政権が戦略的忍耐という考え方ではなく、すべての選択肢がテーブルの上にあるとの考え方で、対処しようとしていることを日本は評価する」と述べた。
この時期に日本政府が「圧力」を強調し、「全ての選択肢による対処を評価する」ことを表明するがどのような意味を持つのか。安倍首相はこの危険性を全く理解していないが如くである。
【武力で平和はつくれない】
北朝鮮は米国の攻撃があれば、「在日米軍基地攻撃」をも含む米国への全面的な報復を公言している。冗談ではない。
1994年の朝鮮半島の核危機の時のシュミレーションによれば、当時の韓国の金泳三大統領は「何百万人が死ぬかも知れない」といい、米政府関係者は「最初の90日間で米軍の死傷者が5万2000人、韓国軍の死傷者は49万人」だと言われた。そして、日本には米国の攻撃をサポートする「有事法制」も「戦争法」もなかった。これらが当時の米国クリントン政権に北朝鮮攻撃を思いとどまらせた理由であった。
それから20数年を経て、今日、核戦争の危機が進んでいるなかでの戦争の犠牲者はこれと比べものにならないだろう。
これに関連して、17日、アメリカのマクマスター大統領補佐官は、16日の北朝鮮によるミサイル発射について、「挑発行動の一環だ」「全ての選択肢がテーブルの上にある」としたうえで、アメリカとしては北朝鮮との軍事的な衝突に至らないよう外交による解決に努める姿勢を示した。そして「日本と韓国だけでなく、中国との間でも緊急の問題だという共通認識がある。われわれにとっては、今こそ武力行使には至らない、あらゆる行動を取り、平和的な解決に努める時だ」と述べ、軍事的衝突以外の解決への努力に努める姿勢を示した。トランプ政権にも躊躇がある。
一方、先頃、北朝鮮で最高人民会議が開かれ19年ぶりに民間外交を担当する「外交委員会」が設置された。これは北朝鮮政府の「交渉」の可能性へのシグナルと見てよいだろう。
武力で平和は実現できない。平和は対話の延長上にしかない。
いま、関係各国の政府と、市民は全力で戦争反対、対話の実現による平和を叫び、進めるべきである。 「圧力と対話」等といって、事実上「圧力」一点張りのやりかたをあらため、緊張の緩和、対話による解決をいまこそ、真剣に求めるときである。
米朝関係は、15日の金日成生誕105周年に続いて、25日の朝鮮人民軍創建85周年記念日に向けて、軍事的緊張がいっそう高まる様相を帯びている。
日本の民衆は「戦争反対」の世論を喚起することと合わせて、この緊張を北東アジアの平和実現に導く外交的努力をすすめる能力のない安倍政権を一刻もはやく退陣させなくてはならない。
(高田 健:「私と憲法」2017年4月25日号所収)
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