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【NPJ通信・連載記事】高田健の憲法問題国会ウォッチング/高田 健

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安倍政権の改憲暴走と苦境、そして私たちの課題

2014年5月7日

安倍首相らは 「国家安全保障会議(日本版NSC)設置法」 の衆院での採択に続いて、 これと一体の 「戦争準備法」 である 「特定秘密保護法」 をなんとしても、この185臨時国会で成立させようと、 各界から一斉に噴出している反対の声に逆らって、必死の画策を続けている。 彼らは高まる世論の批判を緩和するために一部野党の支持を取り付けようと、みんなの党、維新の会との修正協議をとりまとめ、 さらに民主党も修正協議に引き込もうとしている。そのため当初の21日衆院採決の予定は引き延ばしされ、本誌が読者のところに届く頃は、 その攻防が頂点に至っているかも知れない。これに反対する運動は急速に盛り上がり、 11月21日には日比谷野外音楽堂で 「STOP! 『秘密保護法』 11・21大集会」 が広範な人びとの共同で開催され、約1万名の人びとが結集し、 集会のあと国会と銀座に向けてデモ行進した。 主催の実行委員会には新聞労連、平和フォーラム、5・3憲法集会実行委員会、秘密法に反対する学者・研究者連絡会、 秘密法反対ネットの5団体がよびかけ団体として結集した。 私たち 「許すな!憲法改悪・市民連絡会」 は、「5・3実行委」 と 「反対ネット」 の両方に参加し、協力している。 本稿では集会の詳細は報告できないが、政党からは、集会に30人以上の国会議員が参加し、民主党、共産党、社民党、無所属の議員などの挨拶を受けた。

私たちは安倍晋三首相が企てる改憲の布石である集団的自衛権を行使可能な国にするための、 これらの戦争準備諸法制の成立を絶対に許すことができない。

安倍政権の 〈長く厳しい1年〉
11月14日の報道によれば、安倍首相はちょうど1年前の例の民主党・野田佳彦前首相との党首討論で 「解散の約束」 を取り付けて以来の活動を振り返り、 「『あっという間のようですね』 と言う友人もいるが、私にとっては長く厳しい1年だった」 と心境を吐露した。

総選挙で圧勝し、ひきつづく参院選でも勝利を得て、国会の両院で安定多数を確保し、いわば6年前の第1次安倍内閣のリベンジを果たし、 順風満帆に見える安倍晋三が、こういう発言をしたことに意外さを感じた人は少なくないだろう。 しかし、筆者はこれは安倍のある部分の本音を吐露した言葉だと思う。

2012年4月27日、自民党は在野の時代に自民党改憲草案を作成し、その実現を 「歴史的使命」 とした。 サンフランシスコ講和条約発行60周年にあわせて発表したこの改憲草案は、その後、自民党総裁に返り咲いた、 〈戦後レジームからの脱却〉を企てる安倍晋三ら自民党改憲派の綱領そのものであった。 彼らは日本国憲法のもとで 「戦争ができない、戦争をしない」 とされてきた戦後国家体制を変え、米国と共に 「戦争をする国」 への飛躍を果たし、 アジアと世界で覇を唱える日本を夢見ている。野田民主党のひ弱さにつけ込んで政権の奪回を果たした安倍自民党は、「日本を取り戻す」 と叫んで、 この改憲草案の描く日本の実現めざして大いに意気込んだ。それから1年、この仕事は必ずしも安倍首相らが描いたようには進まなかった。 まさにこの点で安倍晋三にとって 「長く厳しい1年」 だったのである。

第1次安倍内閣に於いては、憲法9条の明文改憲を打ち出したが、その企ては全国で一斉に高まった 「9条改憲反対」 の世論の前に破産した。 第2次政権では安倍晋三らはその経験を総括し、9条からではなく、憲法96条からの明文改憲推進という方針をとった。 総選挙での大勝利の勢いに乗って、96条改憲なら、世論の支持を得て、明文改憲を実現できると考えたのである。 しかし、安倍らの期待に反して、戦後68年にわたって、とりわけ日本国憲法とその平和主義をはじめとする3原則の下で、闘い、 積み重ねてきた民衆の運動とそれによって作られてきた民意は、96条先行改憲論が日本国憲法の根本的原則である立憲主義の破壊であることを見抜き、 96条先行改憲に反対する運動が短期間のうちに急速に高揚した。 参議院選挙で96条改憲をねらう明文改憲3派(自民、維新、みんな)で3分の2議席の確保という目標は失敗に終わった。 安倍首相は 「96条先行改憲を強行しても、国民投票の場を含めて、勝利はできない」 と考えざるを得なくなった。 これは安倍首相の大誤算であり、96条改憲反対運動の大きな勝利だった。

加えて、アベノミクスともてはやされた安倍首相の経済政策の矛盾は深刻になり、消費税導入を前に社会的格差が拡大していること、 外交においても隣国の中韓両国との関係が最悪で、これらのことが肝心の日米関係にも影を落としている。TPP、普天間などなど気が休まらない。 ちなみに 「産経新聞」 の報道によると、自民党の石破幹事長は 「名護市長選のことを考えると、夜も眠れない」 とぼやいたという。 安倍政権の〈長く厳しい1年〉は続いている。

明文改憲策動の2度の破綻と、解釈改憲への転進
「9条改憲」 を掲げた第1次安倍内閣の破綻と、第2次安倍内閣での96条先行改憲論の失敗で、 安倍首相は自民・維新・みんな3党連携への移行ではなく、 自公連立政権の維持と解釈改憲による集団的自衛権の行使(戦争する国)を可能にする道を模索しはじめた。 そのため、内閣法制局長官の事実上の更迭や、 集団的自衛権合憲論の北岡伸一国際大教授などを中心にした 「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」 の再起動や、 「安全保障と防衛協力に関する懇談会」 の始動を積極的にすすめている。

安倍首相は安保法制懇や安保防衛懇で世論を地ならしし、集団的自衛権行使の合法化をめざし、「国家安全保障基本法」 を制定し、 このもとで、自衛権に関する憲法のしばりを解き、歴代政権の確認を覆そうとしている。 しかし、この企ては当初は13年年内の予定であったが、今日、その行程表は大幅に遅れている。

集団的自衛権の行使合憲解釈に関する世論の反対の声とそれを背景とする公明党の抵抗は、安倍の予想を大きく上回るものであった。 この 「国家安全保障基本法」 の制定のためには公明党を説得し、その支持を獲得することが不可欠である。 すでに安倍首相は年内の公明党の説得を断念し、来年、第186通常国会の予算成立後、「夏頃に」 という大幅に先延ばしした日程をリークし始めた。 同時に、その期間に公明党に対して、集団的自衛権行使の内容を 「自国の存立損なわれる事態」 に限定する案などを提示して、 妥協を図ろうとする方策を検討するなど、懸命になっている。

国家体制の整備と、
戦争する能力の両面での 「戦争する国」 の準備

見逃せないことは、時間のかかる 「国家安全保障基本法」 の制定を待たずに、 実質的に集団的自衛権行使ができる 「体制」 を先取りして推進する動きである。いま、安倍政権は 「戦争する国」 の国家体制づくりとして、 その司令塔的機能を果たす 「国家安全保障会議(日本版NSC)」 を作り、そのもとでの総合戦略としての国家安全保障戦略(NSS)を策定しようとしている。 185臨時国会に提出された 「国家安全保障会議設置関連法」 案と 「特定秘密保護法」 案は 「戦争する国」 のための戦争法整備の先取り的具体化である。 これら様々な形で立法化されようとしている悪法にシングル・イシュー的な運動で反撃するのではなく、 安倍の 「改憲=戦争する国」 づくりの流れとして、全体的に、総合的にとらえて、反対する運動を作ることが求められている。

一方、戦争する 「能力」 づくりの方面での動きも具体化している。政府は 「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」 の答申や、 「安全保障と防衛協力に関する懇談会」(座長・北岡伸一)によるNSSの原案の提言などをもとに、年内に 「新防衛大綱」 を閣議決定し、 またすでに開始した日米安保ガイドラインの見直しに向けた2+2の協議を経て新ガイドラインを来年中に策定することなどが計画されている。

この中で自衛隊は、従来からの 「専守防衛」 の自衛隊から、海兵隊的機能や敵基地攻撃能力の保持など、 文字通り海外で(宇宙においてまで)米軍と共に戦争をする自衛隊への変容した体制が企てられている。 「防衛大綱」 の策定はその一里塚にされるだろう。こうした動きの中で、オスプレイの全国的展開と、 11月はじめから約半月にも及ぶ沖大東島での自衛隊3万4千人による一大軍事演習などが行われ、 北東アジアの軍事的緊張を激化させていることは重大である。

すすめられつつある自衛隊の変容は日米安保体制の変容にもつながるものであり、新ガイドラインの策定ではこの具体化が求められるが、 米国政府は安倍政権の要求を支持しつつも、必ずしも積極的ではない。

明文改憲はひきつづき自民党の念願
一方、自民党は明文改憲の目標を後景にさげながらも、自らが提起した 「改憲草案」 の実現に向けた明文改憲をあきらめてはいない。
自民党憲法改正推進本部(保利耕輔本部長)は、年内に開催する 「改憲草案」 の宣伝を目的にした全国対話集会に備え、 党所属議員の理解を深めるため憲法改正草案の勉強会を11月末から12月はじめにかけて3回、開催するなど、この国民的浸透に懸命だ。

一方、党内では明文改憲のための前提ともいいえる 「改憲手続き法」 の不備の取り繕い=附則の改定を急いだが、 党内と与党の公明党から不満が噴出し、「改定案」 の策定が難航して、臨時国会中の提出が困難になった。 問題は 「18歳以上」 と規定されている国民投票の投票年齢について、 当初、自民党執行部は国民投票のみを 「公選法」 や 「民法」 の規定と切り離して 「188歳以上」 とする改定案でとりまとめをはかったが、 党内の右派から一斉に反発され、当面 「20歳以上」 とする方針に転換した。 ところが今度はそれに公明党が 「約束違反だ」 と強く反発したのである。 こうして自民党内の改憲積極派が念願の明文改憲の条件整備のための改憲手続き法の整備の足を引っ張るという奇妙な事態になって、 安倍執行部は手を焼いている。

改憲に向かって暴走する安倍首相の弱点
国会の両院で安定多数をえて、念願の改憲に向けて突っ走ろうとする安倍政権の前には幾重もの困難が立ちはだかっている。
第1に、明文改憲、集団的自衛権、秘密保護法、原発再稼働・推進、TPP、消費税導入などなどの安倍政権の重要政策のいずれもが、 世論の多数の支持をえられず、永田町の議席と「ねじれ」状態にあることである。

第2に、安倍政権の成立以来、日米間に重大な 「すきま風」 が吹いていることである。 米国のオバマ政権は安倍政権の 「戦後レジームからの脱却」 というコンセプトに不信を抱いている。 日本の動かすことのできない隣国である中国、韓国に対する歴史問題、領土問題などでの緊張の激化政策は、オバマ政権にとって好ましい事態ではない。 来年春のオバマ来日に向けて、日米間の厳しい駆け引きが行われることは間違いない。

第3に、小選挙区制下での選挙という条件のもとで、野党時代にハト派を収縮させ、よりタカ派的に純化した自民党は、 連立政権の相手の公明党との矛盾を激化させている。 公明党の支持なしに政権を維持できない安倍政権が連立政権内の調整をすすめれば、 安倍政権に期待し、それを支えてきた極右勢力の批判と離反を招かざるを得なくなる。 この問題は9条改憲、96条改憲、靖国参拝、中韓両国との領土問題などをはじめ、ほとんどの重要政策で深刻な二律背反の矛盾を招いている。

第4に、安倍政権への有権者の支持をつなぐ最も重要な課題である経済政策、アベノミクスの停滞である。 呪文のような 「アベノミクス」 のもとに、「大胆な金融政策」 と 「機動的な財政政策」 による景気刺激策をとってみたものの、景気は回復せず、 「世界で一番企業が活動しやすい国」 づくりは一部大企業が富むだけで、庶民の暮らしは停滞し、格差がいっそう拡大した。 アベノミクスの結果、より深刻になった未曾有の国家財政の危機はまったなしの綱渡り状態で、 経済・財政政策の面からも安倍政権は重大な苦境に立たされている。

これらの困難が改憲に向かって暴走する安倍政権の足下を脅かしている。
改憲と集団的自衛権の行使、戦争の道を歩む安倍政権は打倒する以外にない。 私たちに問われているのは、そのことによってこの危険な道の暴走を食い止めることである。 この点で、11・21集会が実現したような幅広いネットワークを形成できるか、どうかが問われている。 各政党や労働組合には歴史的経過があり、その共同は必ずしも容易ではない。 しかし、11・21では困難はあったが一部 「連合」 系有力労組と、「全労連」 などが共同した。 私たちは歴史的な大義の前には違いを留保し、それを乗り越えなくてはならない。

私たちは、意見の違いを暴力と強迫で解決しようとする運動を正当化する一部勢力(こうした運動は結果的に共同の破壊につながるからである)を除いて、 すべての反安倍政権の勢力が共同するよう呼びかける。 その初歩的ではあるが第1歩を 「11・21STOP! 『秘密保護法』 大集会」 が獲得したと考える。 この 「11・21集会実行委員会」 の1日共闘は、22日、一旦解散し、「『秘密保護法』 廃案! 実行委員会」 に再組織され、 185臨時国会中の秘密法反対の課題に協同して対応することになった。そして、直ちに12・6大集会などが提起された。
私たちはこの決定を歓迎する。求められていることは、これをさらに安倍改憲暴走政権を打倒する課題に向かって、前進させることである。

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