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【NPJ通信・連載記事】一水四見・歴史曼荼羅/村石恵照

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(50)米・中・露の戦略下におかれた自立もどきの日本外交

2017年11月21日

「見上げた男!  わたしは彼をよく知っている。

彼は先ず妻を殴っておいて、妻の髪をすいてやる」(ゲーテ;1749-1832)

                  ***

この格言で「見上げた男」とは、だれか。

私見によれば、大航海時代以来の西欧の拡大的征服の情念である。

「わたし」は、だれか。

キリスト教的情念を超えた視座で西欧文明の情念を洞察していたゲーテ自身だ。
ゲーテに大乗仏教の思想が見られることは、つとに指摘されている。

では「妻」は、だれか。

主として非西欧の被征服民たちだ。

はじめは「妻」を物理的に殴っていただけだったが、ギリシャ・ローマ文明の知性とユダヤ・キリスト教の宗教情念の教養を身につけた「見上げた男」の西欧文明は、殴った後の様々な二重規範のサービスを発達させていった。

そのサービスとは、優しい言葉、愛の言葉を投げかけて、暴力行為を受けた被害者におけるトラウマを上書きするレトリック(情報操作)だ。

この点、最近富みに世界的に存在感を顕してきた中国は「髪のすき方」が基本的にいたって不器用である。

「大躍進」で数百万人死亡した、チベット人を弾圧した、天安門事件で人権を蹂躙した、と様々な中国関係の事件が批判される。

が、15世紀以来、西欧が植民地で殺害した人々、アメリカがベトナム戦争や最近のイラク戦争などで殺害した人々は何千万人になることだろうか。

最近では、アフリカにおける中国人の態度が粗暴である、中国の軍事基地を世界各地で作っている、途上国政府の要人を買収している、などの様々な話が聞こえてくる。

しかし、アングロサクソンが、アフリカを武力的に植民地支配し、オーストラリア、ニュージーランド、アジアを支配し、北米では原住民を殺害し、多数のアフリカ人を奴隷として輸入したようなことを、中国は行っていない。

ミャンマーのいわゆる「ロヒンギャ」問題がおこっているが、これもまったく大英帝国の負の遺産であり、多くの偏向した西欧のジャーナリズムによる報道が行われている。

中国については、なにか目立つ事件が起きれば、それが誇大的かつ否定的に解釈されるのは、偏に、知識人を含めた日本人の意識が、数世紀におよぶ西欧による情報操作に洗脳されているからだろう。

                  ***

ここ数年来、様々な中国関係のシンポジウムに参加し、中国通の人々と一緒に訪中もしているが、中国通の日本人の専門家たちには、好き嫌いで中国を論じている人は少ないと思う。

むしろ、ほんとうの中国通の人は、嫌中派の人々より中国の実情を熟知していて、中国全体を嫌うことはないが、決して中国について甘い考え方をしているわけではない。

考え方としては、ネットなどで散見する反・嫌中国の人々の方が、中国に対する見方が甘いのではないだろうか。

嫌悪感情で敵国を設定して自国愛もどきになるのは、悪しきナショナリズムの典型だ。

反・嫌中派の日本人は、無意識の内に、「見上げた男」に「殴られて」ーー東京大空襲と広島・長崎への原爆投下ーーしかも髪をなでられてーー米軍基地と東京上空をアメリカ領土のように提供させられ日本を守ってもらって安心しーー日本の独立を謳いながら、結果として媚米派となっていることに気がついていないのではないか。

                  ***

トランプ大統領は「見上げた男」に見えるかもしれない。

北朝鮮の最高指導者と激しい舌戦の応酬をしているかと思えば、つい最近では、

「懸命に努力して彼の友人となるようにする、たぶんいつかそれは起こるだろう!」(1)

などど言っている。

しかし、「見上げた男」の友人となるのも用心が必要だろう。
軍事大国による隣国への友好道路のプレゼントが侵略道路になるのが国際政治の現状だから、
友人が、そのまま悪友となるかもしれない。

「究極的に、友情は(外交において)なんの役割も果たさない。
 外交においては、だれでも国益にもとづいて行動するものだ。・・・」

これは大統領選前にトランプ氏と適時親密に会っていたキッシンジャー氏の言葉だ。(2)

トランプ大統領と何回会ったとか、どのくらい時間をとったとか、ゴルフをしたとかで親密になるという外交感覚は、ビジネスマンはともかく、国家指導者としていかがなものか。

トランプ大統領は中国とロシアにもて遊ばれているとして、憂慮を示している元CIA長官らの意見もある。(3)

そうだとすれば、中国とロシアに弄ばれている大統領と親密になったつもりでいる首相を、中国とロシアはどのように扱うだろうか。

ましてや、西欧からは見下されてきたロシアと、一説に四人に一人の中国人がアヘン中毒にさせられて、アヘン戦争を仕掛けられ香港を奪われた中国とが、短期的にも手を組んだら、どういうことになるのか。

「見上げた男」と中国が、とりあえず手を組んだらどうなるのか。

                  ***

中国の現状と将来については、中国に対しては嫌・反・不信の評論が書籍とネットで流布しているが、日本の外交方針にとっては何の益にもならないだろう。

計測も予測も困難なのが首脳たちの頭の内だ。

米露の二極構造から、国連常任理事国の米露中の極度に複雑化した三極構造の外交関係の中に、日本は事実上彼らのそれぞれの戦略の内部に取り込まれている。

「見上げた男」に「取り込まれている」振りをしているのが高度な政治手法だという見方もあるかもしれないが、そういってしまえば、敗戦したのも高度な戦略だといっているようなもので、まったく無責任な独りよがりの思考停止だ。

                  ***

・中国は、一党独裁の国家である。
 これは彼らの強みである。「自由ファースト」の西欧と違って「秩序ファースト」の中国で
 ある。
・中国の政権内部で権力闘争が起きている。
 中国の政権担当の指導者たちは、一般国民によって選挙されたわけではないから、当然のこ
 とである。
・中国は「人治」の国である。
 「法治」を自負する西欧諸国が、その二重規範によって道義の劣化が著しいのに比して、中
 国の「人治」は、あながち否定すべきではない。
・習近平総書記は皇帝のようになろうとしている。
 有徳の天子が天下を統治し国民の生活を守るのが伝統的な中国の政治である。マルクス主義
 は、その“伝統”に西欧のお墨付きを与えているのである。
・現在の中国は、長期的展望の下に、国内的と国際的の様々な国家目標が明確に設定されてい
 る。

以上の中国の歴史的現実を考え、好悪の感情と西欧の政治理念の基準を離れて、中国の動きを近視眼的に見ないことが肝要だろう。

なによりも、客観的に検証できることだが、軍事技術の発達を含めた中国の科学技術の先進性は、日本はもちろんのこと、やがてアメリカを抜くだろうという観測もある。

「インド太平洋」戦略といった、いかにも中国包囲網を意図したように聞こえるスローガンを掲げても、日本は所詮アメリカの戦略の支配下に置かれるだけで、親日国インドも簡単に味方にできるわけではない。

日本の政権中枢は、だれが担当しようとも、文明的な視座をもって、仏教と神道の良質の精神的文化遺産の価値を再確認しつつ、官民ともに地道に日中間の理解を深め合う覚悟が重要である。

                                  (2017/11/13 記)
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(1) youtube.com:Trump Tweets that Kim Jong-un is Short and Fat;Why would Kim Jong-um insult me by calling me “old,” when I would NEVER call him “short and fact?” Oh, well, I try so hard to be his frind – and maybe someday that will happen!
(2)「Die Zeit;23. November 2016」の記事。「(40)トランプ新大統領と予断不能の新世界秩序」参照。
(3)OBSERVER: OPINION; Intelligence Community Legends Say Putin Is Playing Trump; By Joe Lapointe • 11/13/17 6:27am; Former CIA Director James Clapper said this is “very, very worrisome from a national security standpoint.”

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