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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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安保法制、30防衛大綱そして憲法9条改正の本当の狙いは中国との戦争だ(1)

2019年4月3日

1 安倍政権が進める中国包囲政策―それは16防衛大綱から始まった

 2004年12月に16防衛大綱が閣議決定されました(「16防衛大綱」とは、平成17年度(=2005年度)以降に係る防衛計画の大綱という意味です。)。それまで専守防衛政策とセットで維持されてきた基盤的防衛力構想を「『基盤的防衛力構想』の有効な部分は承継しつつ、新たな脅威や多様な事態に実効的に対応し得るもの」と述べて、事実上否定しました。我が国の防衛政策が専守防衛政策から離脱を始めたのです。

 16防衛大綱は、我が国を取り巻く安全保障環境を述べながら「我が国に対する本格的な侵略事態生起の可能性は低下する一方、我が国としては地域の安全保障上の問題に加え、新たな脅威や多様な事態に対応することが求められている。」とし、多様な事態として自衛隊が対処すべきものの一つに島しょ部防衛を挙げました。島しょ部防衛で想定する島しょ部への侵攻国は中国です。

 島しょ部防衛は、尖閣有事を口実にして進められますが、これはあくまでも口実に過ぎません。尖閣諸島をめぐり日中間で本格的な武力紛争は想定しがたいからです。本当の島しょ部防衛は、中台武力紛争において、米軍の介入を遅延させるために、中国軍が先島諸島の一部を占領するという想定です。このことは後で紹介する2012年3月24日「機動展開構想概案」(防衛省内部の機動展開WG作成)が示しています。

2 安倍政権は防衛大綱を2回も作った内閣だ

 民主党政権を倒して作られた安倍政権は、民主党政権時代に策定された22大綱(2010年12月閣議決定)を、わずか3年後の2013年12月に作り替えました。25大綱です。10年間の我が国防衛政策の基本を定める防衛大綱をたった3年で作り替える理由はありません。安倍首相は自らの手で作りたかったからと説明するしかないでしょう。

 さらに安倍政権は2018年12月に30防衛大綱を閣議決定しました。一人の政治家・首相が我が国の防衛政策の基本文書である防衛大綱を2回も作ったことは極めて異常なことです。「安倍大綱」と言っても良いかも知れません。

3 25大綱を特徴付けるキーワードは「グレーゾーン事態」です。大綱文書には7カ所登場します。グレーゾーン事態の相手国はいうまでもなく中国です。
 
 このとき25防衛大綱と同時に国家安全保障戦略が閣議決定されました。国家安全保障戦略は「国際協調主義による積極的平和主義」を国家安全保障の基本理念とし、25大綱はこれを我が国国防の基本方針としました。積極的平和主義とは、存在することでの抑止力として自衛隊を位置づけるという基盤的防衛力構想の基本的な考え方を消極的平和主義とし、我が国の安全保障と我が国の防衛、国際的安全保障環境の改善のために自衛隊を積極的に活用するというものです。

 さらに25防衛大綱は、日米防衛協力の指針(以下ガイドラインと略)見直しを提言しました。ガイドラインは冷戦終結後の1997年に旧ガイドライン(1978年)が改訂されてから一度も改訂されていませんでした。ところが25防衛大綱はガイドラインの何処をどう見直すかは言及していないのです。

 政府の今後10年間の防衛政策を決定する最も重要な防衛大綱の中で、ガイドライン改訂をすると述べながら、そのどこをどう見直そうとするのか全く言及していないのは理解できません。

 ところで自民党はこれまでも防衛大綱策定の度に、それに先立って党としての提言を作ってきました。25防衛大綱策定に向けた2013年6月自民党提言はこの点につき、「日米防衛協力強化のためのガイドライン見直し」との表題で、「『集団的自衛権』に関する検討を加速させる」と述べています。つまりガイドラインの見直しの目的が集団的自衛権行使の領域へ踏み込むためであったことが判ります。

 現に2015年4月に日米で合意された新ガイドラインの内容とそれを実行するための国内法制である安保法制は、集団的自衛権行使の一場面である存立危機事態での日米共同軍事行動を定めています。

 安保法制で制定された重要影響事態法(周辺事態法の改正法)と自衛隊法第95条の2他国軍隊の武器等防護は、中国との東シナ海、南シナ海での武力紛争で活用することが想定されています。

 新ガイドライン文書で初めて登場した「領域横断作戦」は、「複数の領域を横断して同時に効果を達成することを目的とする」と述べるだけで、新ガイドラインでは一切の説明はありませんでした。ところがこれが30防衛大綱の中心概念となりました。この「領域横断作戦」こそ、中国軍の軍事作戦である「接近阻止、領域拒否」(Anti-Access/Area Denial, A2/AD)作戦に対抗するため、米軍が中国軍と本格的な武力紛争を想定して作っている軍事作戦「統合空・海戦闘構想(IASBC)」の中心概念となる軍事作戦です。この点はこの連載コーナーへ2016年2月5日アップした「新ガイドラインと安保法制で米軍、米国軍事戦略との一体化を深める日本」をお読み下さい。

4 安倍首相は中国との対抗、封じ込めに執念を持っている

 安倍首相ほど歴代首相のなかで中国との対抗意識を露わにする政治家はいません。地球上の様々なところで中国と角を突き合わせています。
 
 安倍首相は2018年5月ミャンマーを訪問しました。日本の総理大臣として36年ぶりです。なぜミャンマーなのか。ミャンマーはASEAN10カ国のなかで、最も中国の影響が大きい国です。ミャンマーは中国の隣国でインド洋に面しています。中国は中東からの原油をミャンマーからパイプラインを通して中国まで輸送する計画を有しています。一帯一路戦略の重要な拠点です。 そこへ日本が割って入る狙いがあると思われます。

 安倍首相は一部のASEAN加盟国と中国との領有権紛争へ、政治的にも軍事的にも介入しようとしています。この点はこの連載コーナーへ2016年2月9日アップした「安保法制の近未来①-狙いは南シナ海、アフリカ大陸、中東だ」をお読み下さい。
 
 安倍首相は歴代首相のなかで最もアフリカ大陸への関与を深めています。アフリカ大陸は21世紀最後の資本主義のフロンティアと呼ばれており、先進資本主義諸国に先駆けて既に90年代から中国が積極的に進出しています。先進資本主義諸国はこれに大きく出遅れました。

 エチオピアの首都アジスアベバには地域機構であるアフリカ連合(AU)の本部があります。巨大なAU本部の建物は全額中国の援助で建設されました。アジスアベバからジプチまでの鉄道も中国が建設しました。ジプチには中国の巨大な港湾があり、中国海軍も軍港として使用するといわれています。
ジプチには自衛隊の恒久的な基地があり、自衛隊のアフリカ政策の拠点です。ジプチに中国海軍の巨大な基地が出来ることへの強い警戒感があります。

 中国は3年ごとに中国・アフリカ協力会議(FOCAC)を開催しています。他方日本政府は5年ごとにアフリカ開発会議(TICAD)を東京で開催していました。安倍政権は2016年8月初めてアフリカでのTICADをケニアで開催し、これ以降3年ごとに開催することにしました。3年ごとの開催にしたことは中国への対抗でしょう。経済援助でも中国と対抗しようとしています。FOCACで中国がアフリカ諸国へ600億ドルの支援をすると約束したことへの対抗として、ケニアで日本政府は300億ドルの支援を約束しました。

 安倍政権のアフリカ政策については、この連載コーナーへ2016年2月12日アップした「安保法制の近未来②-狙いは南シナ海、アフリカ大陸、中東だ」をお読み下さい。

 安倍政権は、南シナ海からインド洋への関与を強めようと、「インド太平洋戦略」を掲げ、インド、バングラディッシュ、スリランカを重視しています。

 インドは中国との国境紛争を抱えており、中国の中距離核戦力はインドも標的にしているといわれています。インドの核戦力もパキスタンと共に中国を標的にしています。日本は2016年11月インドとの原子力協定を締結し、核不拡散条約非加盟国でありながら、インドの原子力発電所開発へ日本が協力することを約束しました。インド軍と自衛隊、米軍との共同軍事演習を行っています。中国に対する強い牽制です。

 安倍首相は2014年9月に、スリランカとバングラディッシュを訪問しました。中国は一帯一路戦略を進める上でスリランカを重要な戦略拠点として,道路、鉄道、港湾開発などへ巨額の経済支援をしています。中国はバングラディッシュでも港湾を建設しており、スリランカとバングラディッシュを結びインド包囲網にしようとしていると言われています。安倍首相の両国訪問には日本の大企業が参加してトップセールスを展開しました。

 この様に安倍首相は、東南アジアからインド洋、アフリカ大陸にかけて、中国と対抗しながら政治的、軍事的、経済的関与を深めています。
                                        (続く)

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